円環少女質問企画の受付(元記事2011.5.8)

はてなdiaryは使いやすいのか?」の自己検証用に、以前、元blogのほうで受け付けた「円環少女質問企画」の前半エントリをこちらに再アップロードしてみます。

このくらいの長文記事が読みやすくつくれると、いい感じに移行できるので。

>>>> 以下、元記事(2011.5.8)より転載

このエントリだけ読まれるとなんのこっちゃという感じでしょう。
実は、円環少女最終巻の発売日前から、「五年も続いたシリーズなので読者さんから質問を受け付けて長谷が答える企画をやりましょう」という話をしておったのです。

3月からGW前くらいまで、すこしずつtwitterやこのblogで受け付けていた質問に、回答してアップロードしようというのがこのエントリ。前置きが長いですか? 大丈夫。回答本編はもっと長いので。
長すぎるので、エントリを前編後編の2本に分けることにしました。
前編の今日は、シリーズ一般的なことを集めました。後半は、各巻の内容と近いことがらが中心になっています。
わかりにくいという声の多かった再演大系関係は、13巻の内容とセットのほうが説明しやすい事柄が多かったので、あらかた後半に回してあります。

後半は明日(5/8)アップロード予定です。(すみません、微妙にアップロードが遅れてこのエントリも5/8付になってしまいました。お恥ずかしい。)

質問側のまとめは、こんな感じです。
twitter: http://togetter.com/li/106888
blog: http://pub.ne.jp/para_shift/?entry_id=3512415(コメント欄)

皆様、本当にありがとうございました。大切に読ませていただきました。

たぶん、ひととおりは何らかの回答をしていると思います。触れていないところは、様々な理由があって沈黙したと思ってやってください。
あと、文庫の記述を確認していないところもある(さすがに重労働すぎました)ので、間違いありましたら申し訳ない。
もしも抜けがあったらすみません。


明日(5/8)は、挿絵を担当いただいた深遊(みゆう)さんのblogでも、一人円環祭の予定だとか!
TEA TIME BLOG
http://teezeit.en-grey.com/

本当にありがたいです。
円環少女というシリーズは、「pre-pro」というイラストレイター発掘企画がスタートラインで、深遊さんの力なしにはじまりませんでした。
その後、ずっと助けていただいた気がします。深遊さんのイラストとワンセットで円環少女という作品ができていました。
改めてお礼を申し上げます。



□■ 質問前半 「円環少女」シリーズ全般的なことについて


[Section 1:組織について]

(1-1)東西合併前の日本の公館の組織や構成人員など・因果ロボのランク分け(巨神とか巨兵etc.)は明確にあるのか?

東西合併前の公館は、京都御所系と江戸幕府系に別れていました。
これが幕末から明治維新にかけてゆっくりとひとつになってゆきました。
因果ロボにはランク分けがあります。ロボットものでいうなら、因果巨兵が合体ロボくらい、因果巨神は最終合体形態くらいなイメージです。



(1-2)現代魔法学について。どのくらいの規模なんでしょうか? 学会を追放される前の溝呂木さんは何をやっていたんですか?

かつての古代の魔法学者たちは、職能集団的で閉鎖的な集団でした。
現代魔法学は、はるかに組織化され、研究規模が大きくなっています。
これは、アリーセたち《連合》が、《協会》からの独立戦争末期にフランス革命に接近し、国家に露骨に接近するようになったことを起点にしています。

その魔法学会から溝呂木京也が追放されたのは、《協会》所属の魔法使いに人体実験をやったためです。
一般的な学会にくらべて魔法学会は閉鎖的ですが、それでも現代では、地球の他の学会と同様に、さほど政治的な組織ではありません。
追放は、《協会》の強い求めによって、以後協力が得られなくなるおそれがあったため、例外措置として行われました。
彼がやりすぎてしまったため、政治的なポーズが必要になったのです。
このせいでまともな魔法使いに協力を求められなくなって、彼は刻印魔導師、専任係官、そして犯罪魔導師に活路を求め、魔導師公館と密接な関係を持つようになりました。
そう見えないかもしれませんが、苦い経験によって、溝呂木京也は丸くなったのです。



[Section 2:人物について]

(2-1)メイゼルの台詞はどうやって出来たんでしょうか?

メイゼルの台詞は、物語的にここはこんな感じだろうなという感じで作っていました。本当にメイゼルにはいろいろ助けられた小説だと思います。


(2-2)表に出ない専任係官の詳細は?

表に出なかった2人の専任係官のうち、ひとりは担当編集者に本気で止められたキャラクタです。
このキャラクタに関しては、今は出さなくて本当によかったと思っているので、伏せておきます。
もうひとり「7人目」は、専任係官が政府に牙を剥いたときのみ動く特殊な係官です。
どんなに国の状態が混乱しても、それが原因で動くことはありません。
シリーズでは、鬼火の反乱がもしも長引いていれば登場するはずでした。
王子護が狩られていないのは、明治期から日本にいる彼だけはその人物を知っているからでもあります。


(2-3)エレオノールの大好物はなんですか?

エレオノールは、まだ育ち盛りなので油っぽいものが大好きです。


(2-4)アンゼロッタの過去が知りたいです。メイゼルがどうやって作り出したのかもそうですが、どのように育ったのかなども知りたいです。あともう1つ。なぜ螺旋の化身の発動後にメイゼルだけは動けたんでしょうか?

螺旋同位体としてのアンゼロッタは、空気からぽこっと出てきたわけではなく、神音大系の神が秩序を調整した結果、母親から生まれています。
ただし、公式には処女懐胎だったということになっています。(現実にどうであったのかはユーディナ家は明らかにしていません)

螺旋同位体は、メイゼル自身という円環を、自然秩序そのものを軸にして”ねじった”結果現れたものです。
これがあるおかげで、《螺旋の化身》が発動して世界秩序が緊急停止した状態でも、存在が繋がった螺旋同位体がいるどこかの世界で時間が動いていれば、螺旋同位体は活動できます。
つまり、メイゼルの螺旋同位体は全員が《螺旋の化身》による秩序破壊状態でも活動できます。実はアンゼロッタは止まっていませんでした。


(2-5)染血公主はイリーズとメイゼルのどちらの螺旋同位体ですか?前者じゃない場合、イリーズの螺旋同位体はどこに?最後の魔法使いはメイゼルがメカ化したんですか?

染血公主はメイゼルの螺旋同位体です。


(2-6)エレオノールの行く手に豊富なタンパク質を用意したのは神なのか?

エレオノールは、タンパク質を神意だと信じています。



(2-7)瑞希の、最も最近受けた定期テストの結果を教えてください。後ついでに偏差値もお願いします。

赤点でした。地球が大変なことにならなければ、きずなと仲良く留年でした。
偏差値は、学内で40代に乗るか乗らないかで激しい攻防を繰り広げています。




[Section 3:魔法の設定について]

(3-1)三十六宮所属の魔法世界のリストは?

さすがに、作っている部分をまとめるだけでアレなのでスルーさせてください。
あと、ネタ潰しもなんですし。

各宮一位が本編中に登場していないのは、後半で説明する「ラストページ」問題のため、再演大系に関わりたくないためです。
今は、再演大系の都合で運命を決定されてしまう破滅から逃れる方法を、それぞれ独自で模索をしています。


(3-2)各地獄特有魔法の救いの形は?

カオティックファクターの《化身》は、《魔獣使い》、《蛇の女王》には存在し、《破壊》と魔法消去には存在しません。
《魔獣使い》の化身は、《到達の化身》です。13巻で地味に使っていた、自分を稲妻に変えて高速移動していた魔法がこれで、自身の肉体そのものを自然現象に変換することができます。

《蛇の女王》の化身は、《輪廻の化身》です。
くわしくは後半に回しますが、死の瞬間に発動すれば自分自身、生きているときに発動させれば《蛇の女王》以外の魔法使いである自分自身を作り出すことができます。
蛍として現れた舞花が、魔法秩序に属しないちいさな舞花を作ったのがこれです。



(3-3)再演世界が実現した場合、他の魔法世界はどうなったんですか?

再演世界が実現した場合は、有用な魔法や魔法秩序は、時間をかけてどんどん支配下に置かれてゆきます。
再演秩序は、地球を離れて、他の魔法世界にも作用するのです。


(3-4)作中での魔術、魔法、魔術師、魔導師、魔法使い等の言葉の使い分けはなにか法則があるんですか?

「魔術」の語は、魔法全般よりも技術寄りの話をするときに使っていました。
魔術師と魔導師の使い分けには法則はありません。魔術の語が近くにあるとき、魔術師の語を使っていたかもしれません。(数が多すぎて確認はあきらめました)
魔法使いは、「魔法使いという生き方」を指す場合には、かならずこの語を選んでいると思います。



(3-5)《螺旋の化身》は術者をどう記述して発動し、どういうプロセスで対象を破砕する魔法なのか? 螺旋の化身が「術者でありながら術者でないもの」を必要とするのはなぜか?「螺旋同位体」の解説をお願いしますー。

螺旋の化身は、煩雑になりすぎるため作動手順の説明を省いた魔法でした。
最初のほうの巻では魔法手順をいちいち説明して読みにくい文章になった反省から、どんどん削るようになってゆきました。が、一度もないのも問題だったかもしれません。

螺旋の化身は、だいたいこんな感じの魔法になっています。

  1. 標的の足下に円環大系の魔法陣が出現する
    (この時点で、標的の属する秩序に円環大系が加わり、魔法秩序が混乱する。)
  2. 標的の足下の魔法陣が、立体としてせり上がり始める。
    (この螺旋魔法陣の状態になると、標的空間内の魔法秩序が融合しはじめます。秩序自体が混乱し、魔法使いは魔法をほぼ使えなくなります。魔法消去で消失する魔法構造体はこの時点で崩壊。ただし、円環大系と秩序が融合するだけなので、円環魔導師だけはまだ魔法を使えます。)
  3. 標的が螺旋魔法陣に封じ込められる。
    (螺旋の化身とは、この状態から、封じられた空間内部にあるものを”あらしめている法則”をひとつずつ歪めて自壊させてゆくことによって、あらゆるものを破壊する魔法です)
  4. 標的の魔法秩序の”チャンネル”がズラされる。
    (この時点で標的が魔法観測者なら、全魔法が封じられ、かかっていたあらゆる魔法が解除されます)
  5. 標的空間内部の、自然秩序自体の崩壊がはじまる。
    (あらゆる自然力がひとつずつ正常にはたらかなくなってゆき、最終的にはあらゆる秩序がなくなるため、素粒子も存在できなくなります)
  6. 存在するだけで秩序をゆがませる異物となった標的空間が、正常な自然秩序によって世界そのものから排除される。
    (この段階で、標的空間自体が消失し、その世界秩序の監視者である神が秩序のつじつまをあわせます。自然秩序の管理者自体が犠牲者だった場合は、他の自然秩序が標的秩序を秩序系からパージします。)

(1)〜(6)の結果、標的となったものは例外なく破壊され、世界から破棄されます。

完全な《螺旋の化身》に螺旋同位体が要求されるのは、(4)の”チャンネル”をずらすときの反作用を受け止めきれないためです。
術者に螺旋同位体がある場合は、”チャンネル”が完全にズレて、標的はおのが魔法秩序から完全に切り離されます。標的はこの段階で、いかなる魔法を使うこともできなくなります。

螺旋同位体とは、魔法秩序のちがう世界に、扱う魔法以外同一の人間が存在するものです。
作中では、メイゼル=《至高の人》アンゼロッタ=《染血公主》ジェルヴェーヌ=《最初の神人》が、螺旋同位体です。
螺旋同位体は、どんな人物でも発生しえるのですが、メイゼルのように自分の同位体と遭遇するケースはまれです。
遭遇がほとんどないのは、世界が離れていることだけでなく、どの時間時点に発生するかわからないためでもあります。

同一人物なのは発生した段階までで、その後は環境によって大きな違いが生じてゆきます。



(3-6)今まで登場した魔法大系で、作中で使用されていない《化身》はどんなものか教えてください。

精霊大系には《理想の化身》というアバターがあります。虎坂井レイの魔剣の正体はこれです。螺旋の化身と同じ理由で、詳細を出しそびれました。
設定上ベルニッチも使えるのですが、ベルニッチの《理想の化身》は、出すといろんな人がガッカリしそうなのでお蔵入りになりました。



(3-7)<黄金の右手>ミヒャエルはなぜあれほど大きいのか?

元々は人間サイズであるミヒャエルを、《精霊騎士》として出現すると同時に巨大化させているためです。
《はじまりの十五騎士》としてミヒャエルが《極点》から持ち帰った魔法は、《ゆらぎの化身》の強化魔術でした。
神音大系では、ミヒャエル以後、《ゆらぎの化身》に魔法を重ねて強化することが可能になりました。
12巻でアンゼロッタが使った《半精霊化》も、ミヒャエルの魔術から発展した魔術です。



(3-8)門について。繋がる魔法世界は、どこでもドアのように可変なのでしょうか? それとも対応する門を持つ魔法世界にしかつながらないのでしょうか?

門は対応する出口にしか繋がりません。
このせいで、《地獄》(地球)に繋がる門が存在する世界は、地政学的に重要な拠点になっています。
神聖騎士団が、再演の《神》が降臨するまで《聖霊騎士》を地球に集中できなかったのは、守るべき拠点がたくさんあったためでもあります。


(3-9)世界間移動について。目的地に到達した経験が必要な魔法体系がありましたが、その場合、最初に転移した魔法使いはどのように経験を得たのでしょうか?

ある魔法大系では「はじめての魔法世界に飛べない」というような限界は、魔法には、普通に存在します。
こういう限界にぶつかった場合、どうするかというと、それが可能な自然秩序(はじめての魔法世界に飛べる魔法大系)の魔法使いに運ばれて旅行します。
《協会》のような巨大魔法使い集団が、多数の魔法世界の寄り合いになっているのは、自分の世界の秩序で難しいことを(それを簡単にできる秩序の魔法使いに)融通してもらうと便利だったことがおこりです。



(3-10)索引魔法について。神音大系の秩序から創られたわけではない《地獄>>にその場所を示す神音があり転移が可能となるのは何故?

ひとつの世界の魔法秩序は、理屈としては、あらゆる世界を記述できます。
前述(3-9)の魔法の限界とは、法則的に不可能であるということです。この項で言っているのは、つまりその世界に存在するものはその世界の秩序で記述可能だということです。
これができない(秩序の管理者である《神》に頼るところが多すぎる)魔法は、”弱い”魔法であるとみなされます。

この記述に汎用があることから、再演秩序は、地球外にいる魔法使いにも影響をおよぼせます。

秩序が衝突して矛盾を起こしていない場合、そこでは複数の自然秩序は重なり合います。
秩序が矛盾する場合にのみ、魔法同士が衝突、相殺あるいは干渉、変質します。
こういう性質であるため、異世界に行った魔法使いは、自分の世界の魔法を行使できます。

あらゆる魔法世界で「ゆがんでいない部分の物理法則は地球と同じ記述が可能」である(つまりゆがんでいない部分では地球の物理法則が通用する)ことも、この”重なり合い”規則の類例だとされています。
ゆがんでいない部分の法則は地球と同じで、それが衝突する”歪み”の部分のみ魔法秩序によって上塗りされます。

地球の法則が”きれい”で実験環境に最適なのは、魔法使いにとって、自分たちの法則のみが色をつける白紙のキャンパスだからでもあるのです。



(3-11)「自然秩序への違反が観測できなければ、魔法消去を受けない(受けにくい)」のであれば、なぜ自然物であるはずのアモンで作られた物質は魔法消去に弱いのか?

《魔獣使い》の生成物は、生成段階では非常にいい加減なつくりをしています。このため、特に出したばかりのものは魔法消去に弱くなっています。

《魔獣使い》で出した動植物は、長い時間が経つうちに自然物と変わらなくなります。おおよそ、一年二年も経過したものは、魔法消去では消失しなくなります。(よほど年経ていない限り影響を受けるため、体調は崩します。)
また、動物は普通の動物のようにものを食べたり飲んだりするごとに、植物なら日の光を浴びて水や養分を吸うごとに存在が確かになってゆきます。
遡航抵抗を取り込んでゆくとも言えます。これはむしろ《魔獣使い》という魔法の作用ではなく、矛盾を解消しようとする自然秩序(《神》によるつじつま合わせ)の作用です。


(3-12)魔獣使いで生成される自然物は自然物のようにふるまっているだけの別物なのか、本当に自然物なのか。

出したばかりの生成物は、明らかに自然物とズレがあるため、魔法消去で消えます。ただ、食べれば消化できますし、食べて肉になった後で魔法消去を受けることはありません。



(3-13)神人大系(再演大系)も「枠を超えた魔法」であるとあるが、人を操作する秩序で、どうやって他の世界の秩序を記述しているのか?

再演大系は、内心に干渉できませんが、高度な魔術では観測行為を記述できるようになります。
これはわりと単純な話で、「魔法使いは、こころで魔法を使っているわけではない」ためです。
精神的なことに左右はされます。ただし、たとえば野球で、バッターの感情そのものがボールを打ち返しているのではないように、魔法も感情そのものによって発動するわけではないのです。

ただし、再演魔術で観測を記述した魔法は、特に高位魔導師を操った場合は、本人が使うときに比べて基本的には精度は落ちてしまいます。
また、術者本人から抵抗を受けるとどんどん難度があがってゆきます。微妙な抵抗が、やはり大きく影響してしまうのです。

再演魔術のくわしい話は、わりと放り出してしまったところではあります。
きずなは、設定上、規格外の能力の再演魔導師なので、ただでもややこしい魔法で”なにができるのか”が曖昧になっていたかもしれません。
再演大系という魔法を、きずなを通して描くのは、他の相似魔導師を一切書かずに《神に近き者》グレン・アザレイだけを描いているような、行き届かないところがありました。



(3-14)神人遺物は賢者の石からどのように作られる(加工される)のか?またどういう原理で魔法を魔法使い無しで引き出すのか?

神人遺物は、賢者の石が、時間軸の分岐にはさまれた《栞》であることを利用したものです。
《栞》は、自然秩序の安定を取り戻す力(《神》の作用)を巻き込んでいます。これを利用して、賢者の石に、(そこに魔法使いがいるかのような)魔法的観測を擬似的に作り出させることができるのです。
そして、この力は《神》の力が無尽であるため、使い切るということがありません。

再演魔導師が、こうして一度組み込んだ魔法を引き出せるのは、このはたらきを水道の蛇口をひねるようにして再演魔術で取り出せるためです。
再演魔導師以外でも、神人遺物をきちんと使えるのは、再演魔術の手続きを誰でも発動できるように特殊なトリガーを《遺物》に組み込んだものがあるためです。

この誰にも使える”便利”なトリガーつきの遺物には、いくつかのパターンがあります。

  1. たとえば《鍵》は、最初の神人の避難所だった《幻影城》に、彼女の許可無く入れる抜け穴として作られました。
    こうした、他の再演魔導師の足を引っ張るために、未来から干渉して作ってしまう遺物が、”便利”な遺物として存在します。
  2. その後、《鍵》には、《幻影城》のさまざなな機能をコントロールする機能が追加されてゆきました。《幻影城》に人を寄せるよう、魔法使いたちを誘導するためです。
    こうして、”未来”から社会や歴史を誘導するために、その時代の再演魔導師にとっては危険きわまりないほど”便利”な遺物が、存在します。
  3. 最終的に、《鍵》には、破壊すると《幻影城》が砕ける”便利”以上の機能が追加されました。
    こうした、未来に干渉できない過去の再演魔導師による復讐のため、罠として設置した機能が存在します。


”便利”な遺物は、再演魔導師たちにとっても、作るのに手間がかかるものです。
わざわざ面倒をはたらくのは、干渉して遺物を作らせ(改造させ)たそれぞれの時間の流れの”未来”にとって、自分たちの本命であるはたらきを紛らわせたいためでもあります。(この事情も後半の「ラストページ」問題にかかってきます。)
こうして、多くの分岐未来から干渉を受けるため、長い時間の中で”便利”な神人遺物が増える傾向があります。

神人遺物の作成は、再演大系の魔法でもかなり特殊な技術です。
再演魔術の習得とは別に専門的に学ばなければならないことなのですが、きずなは例によって《本》から作り方を直接盗み見たり、”きずなたち”から教えてもらったりしてハードルを乗り越えています。


(3-15)再演大系が「人体への直接干渉ができない」という魔法の法則を無視して、人間を操作できるのはなぜか?

作中で何度か出ていますが、「そのことだけに特化した、特別の魔法」だからです。
人間をはさんで間接的に人間以外のものにも干渉できますが、直接作用させられるのは本当に人間だけです。
通常の魔法法則に沿わない特殊なものであるため、人間の願いのかたちであるカオティックファクターとしてだけ存在しています。



(3-16)破壊や錬金大系による人体破壊も「人体への直接干渉」に該当しないのか?

《破壊》は作中でも説明があったはずですが、壊れやすさがものによってまちまちです。
もっとも壊れやすいものは魔法、人体は《破壊》の魔術で比較的壊れにくいものに分類されています。
《破壊》で人体が簡単に壊れているのは、直接干渉の制約で減衰しても、それを突破してこの威力だということです。

錬金大系による人体破壊は、直接干渉の中では、かなり制限がゆるい部類の魔法です。
《触れたものの性質を変える”表面”》を魔法で作って、それを人体にぶつける。という一手順をはさんでいるせいで、間接干渉に性質が近づいているのです。
つまり、そのとき魔法的変化は、錬金魔導師の作った”表面”にはたらいているのか、変化させられる対象にはたらいているのかということ。

こうした人体への直接干渉の難易度を下げる技術は、いろんな魔法大系にあります。
人体という媒質に音を伝わらせる浸透神音(神音大系)も、この例のひとつです。
やはり人間に直接干渉する魔法は便利なので、よく研究されるのです。


(3-17)聖霊騎士の索引が世界が始まったときから決まっているのなら、未来の聖霊騎士を召喚することも可能か?

可能です。



(3-18)神は世界の構成要素でありながら、索引を持たずに存在できるのはなぜか?

《神》にはきちんと索引があります。
ただ、人間の認識能力では、《神》を求めるために何を要求すればよいかが、わからないのです。
このため、《極点》に到達してすら、《神》を直接索引化することができません。

《神の門》という一手順を必要としたのは、このためです。
裏を返せば、神音魔術である《神の門》を通して降臨がはかれる(索引魔術で魔法的に固定ができる)のは、索引が存在するためです。


(3-19)魔法世界全体を貫く秩序ってなんでしょう?

「観測者がいない状態の世界は不安定である」ことです。
このため、発生できる条件がそろっていれば、高い確率で魔法使いが発生します。
世界にとって、秩序を安定させる手段がこれ(観測者を置くこと)しかないためです。
魔法使いが秩序を乱すものでありながら、秩序自体からはじき出されない(神が人間を排除しない)のは、この共犯関係があるためです。

あるレベル以上の高度魔法が大系を超えるのも、「観測者がいない状態の世界は不安定である」ことが基盤です。